ドル円はいったん106円程度まで下落か?

日銀出身のアナリスト山本雅文氏のロイターのコラムをメモしておきます。
(この方の解説はいつも分かりやすいです)

コラム:米利上げ期待の落とし穴、ドル106円に下落も=山本雅文氏
出所:ロイター 2014-10-08

  • ドル円は2月以降102円を挟んだレンジ取引が続いていたが、8月に急上昇し一気に110円をつけた。
  • 確かに、国内景気は消費増税後の需要反動減からの回復が予想外に鈍く、また順調に上昇してきたCPI前年比も鈍化し始め、日銀の追加緩和期待が再燃しつつあるほか、GPIF運用改革を受けた外貨資産投資への期待感も円売り圧力
  • とはいえ最大の要因はドル全面高で、米国の利上げ早期開始の期待感が急上昇してことが背景。7月のFOMC議事要旨および8月下旬のジャクソンホールにおけるイエレン議長発言が従来ほどハト派ではなかったとの解釈が、9月FOMC参加者のFF金利予測の単純集計が上方修正されたことで視覚化され、ドル買いに拍車がかかった。しかし、FRBが本当にタカ派化して利上げ開始を早めたいのかは大いに再検討の余地がある。
  • 第一に、上記FF金利予想だが、単純集計ではタカ派方向にバイアスがかかっているリスクがある。最近の米金融当局の高官発言を分析してみても、来年第1四半期あるいは春の利上げ開始を主張しているのは最もタカ派の部類に入るメンバーで、彼らのほとんどは来年のFOMCで投票権を持たない。タカ派の中で来年投票権を持つのはラッカー・リッチモンド連銀総裁のみ。今後、利上げ開始に向けて利上げ賛成票の多寡を見極めるには、現在合計10票のうち6票を占める、イエレン議長らFRB理事5人とFOMC副議長を務め常に投票権を持つダドリー・ニューヨーク連銀総裁が明確に利上げに向けたスタンスを示すかが需要。イエレン議長とダドリー総裁以外の理事らの発言は通常少ないため、市場が「物言わぬ多数派」の発言に触れる機会はそう多くない。現在でもこの6人がやると決めれば強行採決で利上げは開始可能だが、政治的にも不人気である利上げを実行するためにも、またイエレン議長の指導力を示すためにも、できるだけ反対票は少ないほうが望ましい。来年投票権があるハト派のうち、ウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁や、ロックハート・アトランタ連銀総裁を賛成側に取り込みたいところだ。エバンズ・シカゴ連銀総裁は最もハト派の部類に入ることから、最初の利上げ時には賛成側に取り込むのは難しいかもしれない。
  • 第二に、インフレ圧力が強まっていないことから、FRBは利上げを急ぐ必要性が低い。FRBが最重視しているとされる個人消費支出(PCE)コア価格指数は5月以降、前年比プラス1.5%で横ばいだが、コアCPIやクリーブランド連銀が算出する加重中央値や刈込平均は5月をピークにむしろ小幅低下。インフレ連動債から抽出される市場のインフレ期待も低下基調。さらに、資産価格も鈍化、米株価は9月後半以降調整色が強まり、住宅価格の伸び率は明確に鈍化。利上げを先取りした急ピッチのドル高も、金融条件の引き締めにつながり、また輸入インフレ抑制を通じて、インフレ率およびインフレ期待を抑制する方向に働いている。つまり利上げを急がずとも、通貨高が利上げの代わりに引き締め効果を米国経済にもたらしている面がある。これで利上げをすれば、金融条件が引き締まり過ぎてしまうリスクすらある。インフレとの関連で気になる他国の先例は、今年6月から8月にかけて市場を翻弄したイングランド銀行。カーニーBOE総裁が6月に利上げ開始早期化を示唆するとポンド高が加速したが、その後、政治的圧力を受けてか、スコットランド住民投票を控えてか、当時前年比マイナスで推移していた賃金上昇率の弱さを強調し始め、8月のインフレ報告で今後の利上げに向けては賃金を重視する姿勢を示し、市場の早期利上げ期待を大きく後退させた。米国でも現在、実質賃金上昇率はゼロ%台で推移しており、イエレン議長も賃金上昇率の弱さに懸念を示していることから、FRBが「BOE化」するリスクはゼロではない。
  • 第三に、利上げ開始に向かうとしても、ドルが一方向に上昇を続けるとは限らない。毎回のFOMCでいわゆる「メジャード(慎重な)ペース」と称された0.25%ポイントずつの小刻みな連続利上げを継続した2004―06年の前回利上げ局面には、最初の利上げ開始前の半年間は104円から114円と広いレンジで上下しつつも方向感は出ず、その後利上げ幅が1%超に達する途中で102円まで下落する局面もあった。今回と比較してみると、来年第2四半期に利上げを開始するとしてもその半年前にも達していない段階ですでにドル円は8%上昇した。これは、前回の利上げ局面でフルに4.25%ポイント利上げした期間中の上昇率6%と比較しても、かなり先走っている。日本側も、円安を手放しで喜んではいない。確かに、輸出企業は輸出数量こそ増えずとも、外貨収入が円換算で増加するのはプラスだし、日銀としても2%の目標達成に向けて、ホームメイドインフレが弱い中で輸入インフレは援軍だ。とはいえ、輸入品への依存度が高い産業は急激なコスト増に見舞われており、円安で苦しむ企業のための支援策すら議論され始めている。賃金上昇率が緩やかにとどまる中での輸入インフレは、家計にとっても痛手。政府高官からの円安に関する発言も明確に変調。安倍首相の発言もアベノミクス初期の「過度の円高是正」から直近では「円安にはプラス・マイナス両面ある」とバランスの取れた微妙なものに変化。これは、「現在の水準は正当化されず持続可能ではなく、さらなる大幅下落の余地がある」と繰り返すNZや、通貨安歓迎姿勢をにじませるユーロ圏、豪州やカナダなどとは対照的なスタンス。
  • ドル高シナリオを基にしたトレード戦略を組むにしても、円安を歓迎しない国内当局者コメントが障害となり得る円ショートより、当局が通貨安歓迎姿勢を隠さないNZドル、ユーロ、豪ドル、カナダドルの対米ドルでのショートのほうがクリーンな米ドル上昇が実現しやすいとみる投資家が増えてもおかしくない。
  • 長い目でみれば、来年にかけて米日間の金融政策面でのコントラストは強まる方向で、115円を目指す展開もあり得よう。ただし、足元110円への対円でのドル高は先走り過ぎていた感があり、スピード調整として、いったん106円程度に下落するリスクに注意する必要がある